がんになって、よかったこと。

ステージ4の大腸がんになっておこった生活や思考の変化を率直に書きます。ネガティブなことばかりではなく、実はポジティブなことも多いのです。

20181010_生き延びる、ということ。

二度の転移を経験している身からすると、定期検診は、とても怖い。

今でも、転移した時の怖さと、それを妻、両親に伝えた時の悲しい感情は、手に取るように覚えている。

電話の向こうで、文字通り息をのみ、言葉を失い、そしてきっと、涙をこらえている。

 

僕が何かしたわけでもないし、感じるべき感情ではないけど、とても、申し訳なくなる。

怖い思いをさせてごめん、と。

 

とはいえ、何より誰より、僕が一番びびっている。

定期健診数日前からとてもそわそわしている。

分かりやすく情緒不安定になるし、イライラする。

前日なんかは上の空で、夜は決まって、寝れない。

 

そのくせ当日の朝は、悔しいことに、いつもより早く起きる。起きてしまう。

だいたい検査のために朝食抜きだし、会社行かないのでひげも剃らなくていいし、前日以上に上の空で奥さんや子ども達とも満足にコミュニケーション取れないので、さっさと家を出る。

通勤ラッシュに私服で潜む優越感と罪悪感を抱えながら、豊洲で乗り換えて、有明へ。

 

有明につくと、文字通り、足が重くなる。いつもの倍ぐらいの重力を感じる。歩いているだけで、自分をほめたくなる。

改札を抜けると大きな白い建物が見える。無機質にそびえたつそれは病院にも見えるし、墓標にも見える。感情や状況によって、見え方が変わる。今日は、病院。

 

入口の前に立つと、車酔いや船酔いの時のような気持ち悪さ。でもまだうっすら。

立ち止まったら入れないので、体重を前にかけて、無理矢理進む。

自動ドアが開く。体をねじ込む。何も考えず、前に進む。

自動受付機にカードを通し、呼び出し器をもらう。

検査は、採血⇒レントゲン⇒CTが僕のルーティーン。CTを撮るのが本当に気が重い。理由はのちほど。

 

採血室は病院の中央付近になる。滅入る気分を押し殺して、極力何も感じないようにして、足を前に動かす。

 

入り口付近はまだ外の空気の名残があるからいい。

進んでいくと、コンビニやイートインコーナーから流れてくるほのかなコーヒーの香り。

ここまでは、まだいい。

そこを超えると、消毒液のにおい。

 

無機質な、無臭なはずなのに、消毒液の匂いが香るだけで、気持ち悪さが強まる。うっすらと吐き気を抱えるようになる。

無理矢理採血室に入り、番号札を取り、呼ばれ、座る。看護師さんにアルコール消毒のアレルギーがあるかとか右と左どちらがいいとか色々聞かれるけど、目は合わせず声は出さず、首を都度縦横に振ったり無言で腕を出して答える。

普段は声が大きい自覚があるが、ここでは多分、僕は無口無表情な患者として認識されているはず。

採血を終え、精一杯の会釈とお礼を伝えると、次はレントゲン室へ。

レントゲン室はさらに奥まったところにあり、消毒液の匂いも濃くなる。

入院患者の方々もいらっしゃって、視覚的にも病院感が強まる。

吐き気がさらに強まる。奥歯を噛み、唇をぐっと結び、なんとかおさえる。

 

名前を呼ばれ、小部屋に通され、検査技師さんに検査着を渡される。今日は男性。せめて若い女性がよかったなーと思うあたり、自分はもうおっさんで、でもまだ男だなと思う。

何十回と聞いた、向こうは何千回と繰り返しただろう事前説明に先ほど同様うつむきながら相槌で精いっぱいの返事をする。

 

検査着に着替えていざ機械の前へ。立った状態で前、横、前で撮って、寝っ転がって一回。

ここは痛いことも苦しいこともされない、イージーモードな検査。

着替えて、検査着をかごに入れて、足早にレントゲン室を後にする。

 

そしてそのまま、立ち止まることなく、CT室の前に。

ここからがメインイベント。

嫌な嫌な、メインイベント。

 

今回はここまで。